2009/01/13

フォークの幻の歌姫たち


 フォークの歌姫なんて常套句的に良く聞きますが、確かにフォークというジャンルは、女性ボーカルものが引き立ちやすいジャンルなのかも知れません。個人的には、フレンチ・ポップス、ソフト・ロック、ジャズ・ボーカル、トラッド・フォークの4つのジャンルに好きになる女性ボーカルものが多いので、フォークの範疇にある女性シンガーは何となく気になってチェックしてしまいます。一概にフォークと云っても、トラッド・フォーク、フリー・フォーク、アシッド・フォーク、フォーク・ロックなどに様々に細分化できるようですが、自分が好きなのはトラッド・フォーク、即ち昔から民間に伝わる伝承歌を歌う所謂リヴァイヴァリストといわれるフォーク・シンガーが特に好みのようです。なので、自作するフォーク・シンガーはあまり好きではなく、考えてみれば客体を自覚している女性が自作して歌うなんてことはないわけですからそれも当然です。今回はちょっと気になるけど残念ながら個人的には落第点の、フォークの幻の歌姫たちを羅列してみたいと思います。



 先ずはVashti Bunyanです。この人の名前、マーゴ・ガーヤンっぽいですが、いまだに何と読むのかよくわかりません。もともとはストーンズがらみのアイドルっぽい歌手でしたが、1970年に発表したフォーキーでメランコリックな『Just Another Diamond Day』というアルバムで、一部にカルト的な人気を博しています。このアルバムの後、音楽活動をやめてしまったのもその一因ですが、2005年に復帰して実に35年ぶりの作品を発表し、『Just Another Diamond Day』の頃と何ら変わらないその歌声にファンは驚愕しました。幽玄系の線の細いボーカルで、牧歌的で童話的な世界です。



 次はLinda Perhacsです。この人、ずっとハワイのミュージシャンと云われていましたがそれはウソです。LA出身のシンガーですが、1970年に『Parallelograms』というアルバムを一枚だけ残してシーンから去っています。音の方は、アシッド系というかサイケ系というか、弾き語りの途中で突然現音っぽい電子音が入ったり、非常にファンキーな曲もあったりして、結構トリッキーな部分もあります。Vashti Bunyanが妖精的な童話世界だとしたら、Linda Perhacsはもう少し神秘世界と云うか魔女っぽい感じです。この人も最近になって復帰しました。



 次はJudee Sill。フォークというよりは、完全にSSW系です。70年代の初頭に2枚のアルバムを発表して、1979年に35歳の若さで急逝しました。原因はドラッグだそうです。曲を聴いてみると、ドラッグで死んでしまったとは思えないほどに素朴で透明感のある世界ですが、あまりにも感情が素直すぎて豪奢なバッキングの盛り立て具合も逆に重く響いてしまいます。しかもジム・オルークあたりが持ち上げているということで、その辺りもいかにもな感じがしてしまいます。



 次はSibylle Baier。この方はドイツ人のフォーク・シンガーです。女優としてヴェンダーズ「都会のアリス」にも出演しているそうですが、この方も若くして亡くなっています。生前に発表された音楽作品はなく、死後になって息子さんがプライベート録音の弾き語り音源をまとめてCD化しました。色合いはモノトーンで、孤独で物憂げな声は、一人遊びをしている少女の独り言のように聞えます。



 次はShelagh McDonaldです。イギリスのフォークシンガーで、この人も2枚のアルバムを残し、その後シーンから遠ざかってしまいました。これまたドラッグが原因のようです。系列としてはもろにSandy Denny系で、実際にRichard ThompsonやDave Mattacksらがバッキングに参加していますが、Sandy Dennyよりは少し声に艶と張りがあって、いかにも英国産らしい上品な感じがします。



 次はCatherine Howeです。この人もイギリスのフォークシンガーですが、これまでの人たちと違って現役です。といっても71年のデビューからこれまでに数枚のアルバムしか出していませんので、非常に寡作でほとんど活動していないに等しいかも知れません。ファースト・アルバムは非常にレアで、かなりの高価で取引されていたようです。優しく憂いのあるスモーキーな美しい声です。



 次はBonnie Dobsonです。カナダ出身のトラッド・フォーク・シンガーで、60年代の初め頃から活動していましたが、この人も70年代に活動停止してしまいました。トラッドも歌いますが自作曲もあり、グレイトフル・デット他が取上げている名曲「Morning Dew」はこの人の作です。カナダ出身だからではないのでしょうが、まさに雪の降る冬の冷たい風のなかに揺らめく灯りのような切なくも優しい声で、個人的には非常に好みです。やはりトラッド贔屓か?この曲はSandy Denneyも歌っています。



 次はAnne Briggsです。有名すぎて全然幻じゃないんですが、数枚のアルバムを残して音楽活動をやめてしまったので、一応ここにも取上げておきます。デビューアルバムは正統トラッドのソロ・ヴォーカルによる作品がその殆どをしめていて、そのヴァージニティたっぷりの清冽な歌声はかなり魅力的ですが、以降セカンド、未発表のサードと次第に自我に目覚めて自作曲を歌うようになり、そのまま引退してしまいました。



 最後はいよいよ本命のKaren Daltonです。この人は、60年代のニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ系のフォークシンガーですが、ボブ・ディランやフレッド・ニールと一時期活動を伴にしていたので、そういう語られ方をします。基本的には自作しない人なのでその辺は好みですが、何よりも特徴的なのはその声です。“フォーク界のビリー・ホリデイ”なんて云われてるようですが、お酒とドラックで完全に潰れた擦れ声で、音楽はフォークというよりブルースという感じです。音楽的に美麗なのが基本のフォークの歌姫の世界では異色の存在で、見た目はそれなりに美しいのですが、なにせお酒とドラッグでやられていますし、この映像を見ると判りますが、下の前歯がなくなっていますね。こういうところも実に異色で私好みです。更には、2枚のアルバムを残して93年に早世していますのでその点でも合格ですが、こういうアーティストには心酔者や野次馬が多いので、もう少し枯れてくれないと手を出す気にはなりません。そんなこと云ってるうちにCDがなくなるかな〜。

 もちろん早世したり活動停止してしまったから幻なんでしょうけど、フォークという音楽にはそういうレアさが似合います。もともとフォークというスタイルには、パーソナルな世界感を一人ギターをつま弾きながら語るように歌うというような要素があるので、なおさらそんな儚いイメージがぴったりきて、フォークの幻の歌姫たちの魅力を増幅させているんでしょうね。残念ながらいずれも私の好みからは外れています(何せシャーリー・コリンズとジーン・リッチーなもんで)ので、これらのシンガーの作品を購入するまでには至っておりませんが、気に入る方は意外と多いのでは、と思います。