どうでしょうか?—殆どの方が、彼女たちの演奏を音楽として成り立っていない聴くに堪えない代物だと思うでしょう。或いは聴いて大爆笑する人もいれば、激怒する方もおられるでしょう。逆にフランク・ザッパのように「ビートルズよりも偉大なバンド」と感嘆する方もいることでしょう。因みにAmazon.comで、彼女たちのアルバムの再発CDに対して寄せられたカスタマー・レビューの数は130件、そのうち最高の五つ星をつけた人は58人、最低の1つ星は33人という結果で、中間層をそれぞれに配分すれば、ほぼ最高と最低の数は半々になります。これぞ正しく賛否両論ですね。私にしてみれば、このshaggsはこれまで世の中に存在したバンドの中で最も敬愛するバンドで、音楽嫌いの好きな音楽としては最高のものです。確かにバッド・テイストではありますが、不思議と私は彼女たちの演奏を下手くそだとは思わないのです。それどころかshaggsの音楽を聴けば聴くほど、実はこの音楽は天文学的に緻密な計算によって作られているのではないかと、阿呆みたいなことを真剣に考えてしまうくらい素晴らしいものだと思っています。Shaggs賛美者の多くがきっと同じような感慨を抱いているに違いないでしょう。
聴いてみてすぐにわかることは、まずはドラムのリズムが歌やギターと全くシンクロしていません。なぜこのようなズレが生じているのか。それを「下手だから」と言い捨てるには、このドラムはあまりにも絶妙な“間”を刻みすぎています。音楽について何も知らない子供に楽器を持たせたら、音楽にならない無茶苦茶な演奏をするでしょうが、そういう意味の下手さとはわけが違うのです。そしてそれを彼女たちが何の疑いもなく演奏していることで、彼女たちが何処か人知の及ばない所に行ってしまっているような印象を受けます。曲の進行に関係なく独自のリズムを刻むドラムに、ぶっきらぼうで能天気なボーカル、それに完全にユニゾンするリードギター、そして全く音程無視のベースが数曲に入るという、まったくもって史上最強、空前絶後の名演奏です。もちろん楽器のチューニングはゆるいし、歌の音程も曖昧で、敢えて微分音を使って歌ってるんじゃないかと疑うほどです。それでもこの演奏を何度も聴いていくと、精神も肉体も何もかもを放擲して、すべての形あるものが溶解していくような、意志とか意識というものが脳から溶け出して流れていくような感覚に晒されます。もしかしたらこれは別の世界の話なのかもしれませんが、もはやそこには苦しみも哀しみもなく幸福な光だけがある、というような感覚にさえ陥るのです。非常に大袈裟な言い方ですが…。
加えてshaggsのもう一つの大きな魅力(魔力)は、アルバム『Philosophy of the world』のジャケットを見て頂ければわかる通り、彼女たちのその容姿です。こちらも音楽の内容を裏切らない、というかピッタリのぶっ飛んだ三姉妹で、その奇跡の不細工ぶりはこのバンドのカルト度をさらに引き上げています。アメリカの片田舎の三姉妹の父親が、ある日突然その娘たちに楽器を与えて一日でレコーディングさせたのがこの『Philosophy of the world』なのですが、父親にとって彼女たちは自慢の娘たちだったということは、このジャケを見ればよくわかります。そしてその愛こそがこの作品に普遍的な魅力を与えているのです。
The Shaggs CD Discography
『The Shaggs』 Rounder/Red Rooster(US) CD 11547/1988
『The Shaggs』 Creation/Rev-Ola(UK) CREV 019CD/1994
『Philosphy of the World』RCA Victor(US) 09026 63371-2/1999
『Philosphy of the World』Lost House Archive Club(JAPAN) LHAC7007/2007 ※紙ジャケ
『Shaggs'Own Thing』Lost House Archive Club(JAPAN) LHAC7013/2008 ※紙ジャケ
※掲載したのはRev-Ola盤のCD。このジャケットの3人、マトリョーシカみたいで可愛いと思うのは私だけでしょうか?

